前立腺肥大症通信 No.5

レーザー光が切り開いた新しい治療の世界
前立腺肥大症治療における低侵襲治療のリーダー「HoLEP」 

前立腺肥大症を悪化させないために

前立腺肥大症は50歳以上の男性に多く、60歳代では5割以上、70歳代では約7割の方が罹患しているといわれています。前立腺肥大の症状(排尿障害など)が気になる場合は、まずは泌尿器科の医師に相談してみましょう。
また、症状を悪化させないためには、次の点に注意しましょう。

  1. アルコールを控える、飲み過ぎない
  2. 下半身を冷やさない
  3. 風邪薬※2(総合感冒薬、咳止め、鼻炎の薬)の服用に留意する
  4. 刺激の強い食べ物、動物性脂肪、たんぱく質の摂り過ぎを避ける
  5. 尿意を我慢しない
  6. あつ過ぎるお湯にゆっくり入浴しない

「HoLEP」治療の手順

HoLEPは、レーザー光(ホルミウム・ヤグレーザー)を用いるため、患者さんの体に負担が少ない前立腺肥大症治療を可能にします。HoLEPの術式についてご紹介します。

1. 肥大した内腺を大きくくりぬく
前立腺の組織は、尿道の左右(左葉・右葉)、および人体下側(中葉)からそれぞれ内側に向かって肥大していきます。HoLEPはホルミウム・ヤグレーザーを照射し内腺と外腺との境目に入り、内腺のみを核出します。核出された3つの前立腺組織は一度、膀胱内に移動させます。

2. 細切して排出
肥大した前立腺組織の核出が終了すると、モーセレーターという機器を用いて、膀胱内に移動させた前立腺組織の核出片を細切し、吸引しながら体外に排出します。モーセレーターは先端が細い管になっており、尿道から膀胱まで挿入し、先端の小さい穴から核出片を吸引します。 
3. カテーテル留置
核出した前立腺組織をすべて体外に排出すると、モーセレーターを取り除き、かわって尿路の確保や保護、止血のために尿道カテーテルという管を挿入します。尿道カテーテルは血尿がほぼなくなった翌日には抜去されるのが一般的です。 

「HoLEP」治療のメリットは?

HoLEPの特徴は、レーザー光の照射だけではありません。この治療方法は、体への負担がより少ない前立腺肥大症治療を実現します。

1. メスを使用しない、体に優しい手術
内視鏡を使用する手術ですので、メスで腹部を切る必要がなく、体への負担がより少ない、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)向上に貢献できる治療法です。

2. 安全性の高い手術
HoLEPに使用されるホルミウム・ヤグレーザーは、水への吸収率が高いため、組織到達深度はわずか0.4mmです。
また、ホルミウム・ヤグレーザーは、レーザーファイバーの先端を組織から5.0mm離すと組織に影響を与えません。つまり尿道や膀胱内が水で満たされていれば、ほかの組織に影響を及ぼすことなく照射できます。2.0mm以下の距離では、組織の切除が可能となり、同時に組織を焼くことで止血が行われます。そのため、出血が少なく、切除痕の回復も早く、結果的に入院期間も短縮されるといったメリットも生まれます。

3. 痛みが少ない手術
このHoLEPは、前立腺組織のうち、血管が少ない外腺と内腺の境目を切除しますので、出血や術後の痛みが少ない手術です。そのため、鎮痛薬を使用する頻度が少なくなっています。

4. 合併症が避けられる
HoLEP同様、内視鏡を使用する前立腺肥大症手術であるTURP※3は、非電解質の灌流液(手術の際の出血や切除した組織を洗い流すための液体)が体内に吸収されることによる「低Na血症」という合併症を起こすことがあります。しかし、HoLEPでは、血液・組織液と浸透圧が等しい生理食塩水を灌流液として使用するため、「低Na血症」が起こりません。 

5. 再発の可能性がきわめて低い
HoLEPでは、肥大した前立腺組織を核出するため、残存組織が少なく、再発の可能性はほとんどありません。
患者さんへのメリットが大きいHoLEPですが、実施している医療機関は、全国で約50施設です(2005年11月現在)。体に負担の少ない手術方法であるため、より多くの医療機関で導入されることが期待されています。 

監修:
国際親善総合病院 院長
村井 勝先生