前立腺肥大症
News Letter No.1
リタイア後にあらためて症状を自覚する前立腺肥大症
2007年からは団塊の世代の定年で患者も激増か
患者数は15年間で約3倍
前立腺は精液成分の一部を作る生殖器で、膀胱から出てくる尿道を取り巻くような形になっています。この前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害をもたらすのが前立腺肥大症です。原因はまだ解明されていませんが、最近の研究ではアンドロゲンという男性ホルモンの関与がわかってきました。
厚生統計協会が2002年に実施した患者調査によると患者数は39万8千人。1987年には13万5千人でしたので、この15年間で患者数は約3倍に増えたことになります。この激増の理由は、第一に高齢者が増えてきたことがあげられます。また、様々な啓蒙活動により前立腺肥大症が病気として認知されるようになったことも大きな要因です。かつては症状があっても「年のせいだから、仕方がない」と我慢するケースが非常に多かったのですが、最近では受診する人が増えてきています。近年、膀胱の排尿機能や神経の働きなどの研究が進み、対応の仕方がわかってきたことも、受診者が多くなった理由でしょうか。
しかし一方で、前立腺肥大症の患者はまだまだ潜在化しているという見方もあります。前立腺肥大症は、50歳以上の男性で5人に1人ともいわれますが、日本の50歳以上の男性人口は約2,400万人ですので、統計学上、約480万人が患者ということになります。厚生統計協会・患者調査の39万8千人という患者数を考えると、まだまだ9割以上の方は症状を我慢して潜在化しているのではとも考えられます。
膀胱機能の低下が頻尿を加速
前立腺肥大症は、初め尿が出にくくなり、膀胱が空にならなくなるので、これを押し出そうとして膀胱の壁が厚くなり、肉柱形成と呼ばれる凸凹ができます。その結果、膀胱の容積が小さくなって弾力性も失われ、ますます排泄能力が低下して残尿が多くなるのです。さらに加齢とともに抗利尿ホルモンが減少して、夜間に尿中の老廃物を濃縮する機能が損なわれます。そこで濃度の薄い尿で何度も排泄しなければならず、夜間の頻尿が加速するわけです。
前立腺肥大症の症状は頻尿のほか、排尿の勢いが弱い、“切れ”が悪い、残尿感などがあげられます。こうした排尿障害は進行すると、末期には尿閉となり、最悪の場合、腎不全を併発する危険性もあるのです。
2007年は「団塊の世代」がリタイア、前立腺肥大症を自覚する患者も急増か
受診する方の中には、前立腺がんを心配して病院に行き、結果としてがんではなく前立腺肥大症を指摘されるケースも多いようです。前立腺肥大症と前立腺がんはよく間違われますがまったく違う病気です。両者を診断できるのは泌尿器科の専門医です。前立腺の病気を疑う場合は、まず、泌尿器科を受診することをお勧めします。
東海大学医学部外科学系 泌尿器科学教授
寺地 敏郎先生