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アーティクルサマリー

BSCCI vol.14

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アテレクトミー後に高度石灰化病変に留置した
エベロリムス溶出ステントに対する組織の反応

   

大阪公立大学医学部附属病院 循環器内科

山口 智大 先生

背景

高度石灰化を伴う冠動脈狭窄は、薬剤溶出ステント(DES)を留置した場合でも有害心血管イベントの発生率が高く、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行う際の課題となっている。高度石灰化プラークに留置したステントストラットでは非高度石灰化プラークに留置した場合に比べて血管治癒に遅れが生じ、非被覆ストラットが増えることが最近の病理組織学的研究で明らかになっている。この非被覆ストラットは「急性期から超遠隔期にかけて発生する」ステント血栓症の原因となりえるため、DES留置患者の管理において重要な問題である。アテレクトミーは、石灰化部分を減らし、ステント拡張の最適化を図る上で臨床上有用であるが、石灰化病変を破砕・切削する処置(modification)を行うことからDES留置後に圧着不良ストラットが増え、血管治癒が遅れ非被覆ストラット数が増える可能性がある。周波数領域光干渉断層撮影法(FD-OCT)ガイド下の高速回転アテレクトミー施行後の血管治癒を分析したこれまでの研究で、急性期ステント圧着不良(ASM)の一部は中期の追跡期間中に解消可能であることが示されている。また、ASMに対する組織の反応は、ストラット周囲の組織の組成やストラットと血管壁間の距離(S-V距離)によって異なることも知られている。
現在のDESは血管治癒を加速させることが報告されているが、薄いステントストラットや生分解性ポリマー、血管壁側のみのポリマーコーティングなどの生体適合性技術が、アテレクトミーを必要とする高度石灰化を伴う冠動脈狭窄患者においてどの程度有効かはほとんど知られていない。
本研究では、アテレクトミーを必要とする高度石灰化を伴う冠動脈狭窄患者を対象に、血管壁側のみに生分解性ポリマーをコーティングしたエベロリムス溶出ステント(BP-EES)または耐久性ポリマーをコーティングしたエベロリムス溶出ステント(DP-EES)で治療を行ったときの圧着不良ストラットの血管治癒について検討した。
 

方法

試験デザイン
後ろ向き観察研究

対象患者
2015年6月~2021年6月に当院で治療を受け、FD-OCTガイド下でアテレクトミー後にBP-EESまたはDP-EESによるPCIを施行された、高度石灰化を伴う冠動脈狭窄(石灰化角度180度超)の患者。

アテレクトミーデバイス
高速回転アテレクトミーはRotablatorまたはRotaPro、オービタルアテレクトミーはDiamondback 360 Coronary Orbital Atherectomyシステムを使用した。

FD-OCT解析
ベースライン時と追跡調査時にFD-OCTを行い、病変形態、ステント圧着不良、ステント拡張の範囲、血管治癒を評価した。S-V距離(μm)が200μm以上をASMと定義した。ASMがみられるストラットは、ストラット周囲のプラーク形態に従って、(1)石灰化病変に亀裂がある、またはアテレクトミーで処置を行ったストラット(Mod-Ca)、(2)石灰化病変に亀裂がない、またはアテレクトミーによる処置が行われていないストラット(Non-mod-Ca)、(3)非石灰化病変に対するストラット(Non-Ca)、に分類した。Mod-Caは、石灰化病変に亀裂があるストラット(Ca-Fx)と石灰化病変に対してアテレクトミーで処置を行ったストラット(A-Ca)にさらに分類した(図1)。ASMの解消、新生内膜被覆、残存S-V距離、新生内膜厚(μm)、組織増殖(μm)を追跡調査時のFD-OCT画像から評価した。


図1 ベースライン時および追跡調査時のFD-OCTの代表的な断層像。A~C:ベースライン時のプラーク形態に対するステント圧着不良の分類、A:亀裂のある石灰化病変またはアテレクトミーデバイスで処置した石灰化病変における圧着不良ストラット(Mod-Ca)、a:亀裂のある石灰化病変における圧着不良ストラット(Ca-Fx、赤矢印部分)、b:アテレクトミーデバイスで処置した石灰化病変における圧着不良ストラット(A-Ca、赤矢印部分)、B:亀裂のない石灰化病変またはアテレクトミーによる処置を行っていない石灰化病変における圧着不良ストラット(Non-mod-Ca、赤矢印部分)、C:非石灰化病変における圧着不良ストラット(非Ca;赤矢印)、D~G:急性ステント圧着不良が解消し、追跡調査時に新生内膜で被覆された圧着不良ストラット(青矢印部分)。
 

結果

①患者背景
対象患者は30例(BP-EES 群15例 DP-EES群15例)で、DAPT期間、術前後の検査データに有意差は認められなかった(表1)。

②病変・手技
病変の石灰化角度の中央値(四分位範囲、以下同)は293.8度(253.8~326.0度)、石灰化病変厚の中央値は1.35mm(1.15~1.60mm)であった。30例のうち26例(86.7%)で高速回転アテレクトミー、4例(13.3%)でオービタルアテレクトミーが施行された。


表1 患者背景
表中の数値の後ろのカッコ内は%または四分位範囲(25%~75%)を示す。BSA:体表面積、SAP:安定狭心症、SMI:無症候性心筋虚血、UAP:不安定狭心症、NSTEMI:非ST上昇型心筋梗塞、PCI:経皮的冠動脈インターベンション、CABG:冠動脈バイパス術
 

③ベースライン時のFD-OCT解析
956の断層画像から計6,234本のストラットが検出され、これらのS-V 距離中央値は72μm(50~101μm)であった。401本(6.4%)のストラットが圧着不良で、これらのS-V距離中央値は289μm(237~392μm)であった。ストラット周囲のプラーク形態は、92本(22.9%)がMod-Ca、107本(26.7%)がNon-mod-Ca、202本(50.4%)がNon-Caに分類された。さらに、Ca-Fxは27本(6.9%)、A-Caは63本(16.1%)であった。

④追跡調査時のFD-OCT解析
追跡期間中央値は351日(284~407日)であった(表2)。401本の圧着不良ストラットのうち、31本(7.7%)は追跡調査時のFD-OCTで画像が不鮮明で、9本(2.2%)は再狭窄断面(管腔断面積<3.0mm2)とみなし解析から除外した。最終的に、初回・追跡調査のFD-OCT画像から解析可能な361本のストラットが検出され、そのうちの308本(85.3%)はASMが解消され、残存S-V距離の中央値は311μm(149~420μm) であった。さらに、361本のうち311本(86.2%)が新生内膜で覆われ、301本(83.4%)で十分な血管治癒が認められた。新生内膜厚の中央値は64μm(36~132μm)であった。

 

表2 急性期ステント圧着不良の追跡調査時のFD-OCT
表中の数値の後ろのカッコ内は%または四分位範囲(25%~75%)を示す。ASM:急性期ステント圧着不良、S-V距離:ステント-血管壁間の距離
 
⑤プラーク形態とDESタイプが組織の反応に及ぼす影響
一般化推定方程式を用いた多変量線形回帰分析の結果、BP-EES群ではDP-EES群と比較して十分な血管治癒が有意に多く認められた(図2)。

図2 一般化推定方程式による多変量線形回帰分析を用いた、十分な血管治癒の予測における石灰化病変処置とステント選択の影響の推定。本モデルでは、十分な血管治癒を1標準偏差(SD)の増加として推定するために連続変数を用いた。圧着不良ストラットにおける各パラメータのSDは、経過観察期間が114日、S-V距離が141μm、管腔断面積が2.91mm2であった。
BP-EES:生分解性ポリマーエベロリムス溶出ステント、DP-EES:耐久性ポリマーエベロリムス溶出ステント、Mod-Ca:処置後の石灰化病変、Non-mod-Ca:処置を行っていない石灰化病変、Non-Ca:非石灰化病変、S-V距離:ステント-血管壁間の距離
 
追跡期間、S-V距離、管腔断面積、ストラット周囲のプラーク形態も十分な血管治癒と有意に関連していた。追跡期間、S-V距離、管腔断面積を調整した回帰モデルでは、十分な血管治癒はDESのタイプおよびストラット周囲のプラーク形態と有意に関連しており、十分な血管治癒はBP-EESを使用したMod-Caで最も良好であった(図3)。ストラット周囲のプラーク形態の分類をさらに解析した結果、ステント種類、追跡期間、S-V距離、管腔断面積は十分な血管治癒と有意に関連していた(BP-EES vs DP-EES:OR3.832、95%CI 1.207~12.168、P=0.023;追跡期間:OR 2.311、95%CI 1.174~4.548、P=0.015;S-V距離:S-V距離:OR 0.645、95%CI 0.433~0.961、P=0.031;断面内腔面積 OR 0.665、95%CI 0.444~0.996、P=0.048)。ストラット周囲のプラーク形態も十分な血管治癒と有意に関連していた(Ca-Fx vs Non-mod-Ca:OR 4.654、95%CI 1.600~13.539、P=0.005;A-Ca vs Nonmod-Ca:OR 2.216、95%CI 1.099~4.469、P=0.026; Non-Ca vs Non-mod-Ca:OR 1.229、95%CI 0.427~3.542、P=0.702)。
図3.
一般化推定方程式による回帰分析を用いて、追跡期間、S-V距離、管腔断面積で調整し、プラーク形態とステント種類の十分な血管治癒を予測する効果修正モデル。Non-mod-CaへのDP-EESを基準とした場合、十分な血管治癒はステントの種類およびストラット周囲のプラーク形態と有意に関連していた(Mod-CaへのBPEES:OR 10.312、95%CI 2.211~48.090、P=0.003、Non-CaへのBP-EES:OR 4.620、95%CI 0.885~24.114、P= 0.069;Non-mod-CaへのBP-EES:OR 3.710、95%CI 0.629~21.877、P=0.148;Mod-CaへのDP-EES:OR 2.860、95%CI 1.226~6.672、P=0.015;Non-Caに対するDP-EES:OR 1.249、95%CI 0.357~4.374、P=0.728;交互作用のP=0.004)。
 

結論

DESの選択と石灰化病変への処置は高度石灰化病変における圧着不良ストラットの血管治癒に影響を及ぼす可能性があり、Mod-Caに留置したストラットは血管治癒が比較的良好で、BP-EESの留置はDP-EESよりも良好な血管治癒と関連していることが示された。
 

論文ポイント

  • 本研究では、アテレクトミーを必要とする高度石灰化を伴う冠動脈狭窄に対し留置したBP-EESとDP-EESの、圧着不良ストラットの血管治癒を比較検討した。
  • 本研究から、Modified Calciumはより良好な血管治癒を示し、BP-EESの留置はDP-EESと比較し、より良好で十分な血管治癒と関連していることが示された。
  • 本研究結果はアテレクトミーを使用した高度石灰化病変におけるDES留置後の血管治癒に関連する因子に対する理解を深めるものであるが、この所見を確立するためには更なる前向き試験の結果が待たれる。

 

 

承認番号・販売名

販売名 : ロータブレーター
医療機器承認番号 : 20900BZY00356000

販売名 : ロータブレーターPRO
医療機器承認番号 : 23000BZX00060000