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アーティクルサマリー

BSCCI vol.13

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日本人慢性冠症候群患者に対する
生分解性ポリマープラチナクロムエベロリムス溶出型ステントによる
経皮的冠動脈インターベンション後のプラスグレル単剤療法
(ASET-JAPAN試験)

   

藤田医科大学病院
循環器内科

村松 崇 先生

背景

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の血栓性・虚血性イベントを予防するためにアスピリンとP2Y12阻害薬による2剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準療法となっているが、DAPTを長期間継続することは、出血性イベントのリスク増加と関連している。最近では複数の無作為化比較試験から、1~3ヵ月といった短期DAPT後のP2Y12阻害薬単剤療法が有望であることが報告されているが、“Aspirin Free Strategy”の試験は1つのPilot Studyに限られている。プラスグレルは、第3世代チエノピリジン系抗血小板薬であり、第2世代のクロピドグレルよりも血小板抑制効果が迅速かつ一貫して強い。また、アスピリンを日常的に使用すると、消化管の粘膜傷害と出血のリスクが上昇し、有害な心血管・非心血管系イベントにつながる恐れがある。

東アジア人は、CYP2C19*2/*3の機能喪失型アレルの保有率が高い。このアレルは治療中の血小板反応性の高さと関連しており、東アジア人は白人と比較してPCI後の血栓性イベントの発生率は同等かそれより低いものの、出血性イベントのリスクは高いことが報告されている。この現象は「East Asian paradox」と呼ばれ、民族・人種に応じてDAPTレジメンを修正する必要があることを示している。

今回のASET-JAPAN pilot 試験では、CCSまたは非ST上昇型急性冠症候群の日本人患者を対象に、SYNERGYステントによる最適なPCI後の低用量プラスグレル(3.75mg/日)単剤療法の実施可能性と安全性を検討した。本稿では、CCS患者を対象としたPhase Ⅰの結果を報告した。

方法

●試験デザイン:
日本の12施設で実施された多施設前向きシングルアームオープンラベル試験

●対象患者:
標準的なDAPTによる負荷投与後にSYNERGYステントによるPCIが施行され、術者によってPCIが成功したと判断された、解剖学的Synergy between PCI with TAXUS and Cardiac Surgery(SYNTAX)スコアが23未満のCCS患者を対象とした。段階的に治療を行った場合は、最後の手技をPCI施行時点とした。

●抗血小板療法のプロトコール:
長期DAPT(PCI施行の5日以上前より開始)を受けている患者を除き、PCIの2時間前に標準的DAPT(アスピリン81~330mgに加えてクロピドグレル300mg、またはプラスグレ ル20mg、またはチカグレロル180mg)の負荷投与を行った。PCI後は全ての登録患者が、3ヵ月間の追跡期間が終わるまで3.75mg/ 日の維持用量でプラスグレル単剤療法を受けた。PCI後はアスピリンを処方しなかった。

●PCI手技:
術者によって造影所見上50%以上の対血管狭窄率を有すると判断された病変を対象とし、周術期の抗凝固療法は施設のガイドラインに沿って術者の判断で実施された。全ての標的病変はSYNERGYステントを用いて治療され、施設で標準的に使用されるAngio、QCA、及び血管内イメージングデバイス(血管内超音波【IVUS】、光干渉断層撮影【OCT】)を用い、至適ステント留置を達成した(残存狭窄<20%、エッジダイセクション、血栓、主要側枝閉塞、no-reflow、ステント拡張不良、及びステント不完全圧着がない)と判断された症例が登録された。

●本試験のエンドポイント:
主要虚血性エンドポイントは、心臓死、標的血管における心筋梗塞(MI)、ステント血栓症(ARC分類でdefinite)の複合とした。主要出血性エンドポイントはBleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準のType3またはType5の出血とした。副次評価項目は、全死亡、脳卒中、MI、再血行再建術、ステント血栓症(definite、probable、possible)、BARC出血基準のType1~5の出血、主要エンドポイントの各要素とした。また、本試験は3ヵ月の追跡調査期間中に3例以上のDefiniteステント血栓症が発生した場合、試験の登録を中止しなければならない、というストッピングルー ルのもと実施された。

BSCCI vol.13

結果

① 患者背景
3ヵ月間の追跡調査を終えたCCS患者206例(男性168例、女性38例、平均年齢69.0±9.8歳)を対象とした(表1)。176例(85.4%)に脂質異常症、165例(80.1%)に高血圧症、74例(35.9%)に糖尿病の病歴があり、51例(24.8%)が過去にPCIを受けていた。日本版High Bleeding Risk(J-HBR)基準を満たした患者は全体の39.8%で、解剖学的SYNTAXスコアは平均8.0±4.6であった。

② 病変・手技
血管アクセス部位は93.7%が橈骨動脈で、病変部位は左前下行枝が63.1%、右冠動脈が20.5%、左回旋枝が15.0%であった。最適なステント留置のために67.5%の患者で血管内超音波検査(IVUS)、32.1% の患者で光干渉断層撮影(OCT)/ 光周波数領域画像(OFDI)による血管内イメージングが行われた。患者1例あたりのSYNERGY留置本数は1本が86.4%、2本が13.1%、3本以上が0.5%で、ステント長は平均25.0±8.7mm、ステント径は平均3.0±0.5mm、手技時間は平均63.2±27.8分であった。
最適なステント留置が本試験の適格基準であったが、定量的冠動脈造影法により、ステント留置後の病変の19.6%で径狭窄率20%以上の狭窄が残存していたことが判明した。PCI後のTIMI分類は全例でグレード3を達成した。IVUSによる最小ステント面積(MSA)≧5.5mm2は病変の46.3%、OCTによるMSA≧4.5mm2は病変の67.7%で達成された。Stent expansion index<80%は、IVUSでは51.0%、OCTでは30.0%の病変で見られた。PCI後の定量的冠血流比(μQFR)平均値は0.93±0.05で、μQFR≧0.91は治療血管217本のうち77.9%で達成された。

③ PCI前後の抗血小板療法
患者206例のうち、156例はPCI施行時点でプラスグレルの長期投与(5日以上)を受けていた。16例はPCI施行の2時間以上前にプラスグレル20mgの負荷投与を受け、15例はPCI施行前の2時間以内に負荷投与を受けていた。PCI施行前にプラスグレルの負荷投与を受けたこれら31例のうち、13例はアスピリン単剤、1例はクロピドグレル単剤、2例はDAPT(アスピリン+クロピドグレル)を受けていた。PCI施行中にプラスグレルの負荷投与を受けた患者は13例で、そのうち6例はアスピリン単剤、1例はクロピドグレル単剤、2例はDAPT(アスピリン+クロピドグレル)を受けていた。PCI施行後にプラスグレルの負荷投与を受けた患者は5例のみで、そのうち3例はPCI時に長期DAPT(アスピリン+クロピドグレル)を受けており、2例はアスピリン単剤投与中であった。DAPT(アスピリン+クロピドグレル)を行っていた1例は、PCI施行後にプラスグレルの負荷投与を受けることなく、プラスグレル単剤に切り替えられた。

④ 臨床成績
3ヵ月間の追跡期間中、主要虚血性エンドポイントと主要出血性エンドポイントはどちらも発生しなかった(表2)。副次的エンドポイント(表3)のうち、虚血性脳卒中(1例)、標的血管 が関連しない心筋梗塞(1例)、BARC出血基準のType1の出血(4例)、Type2の出血(1例)、非標的血管の再血行再建術(1例)が認められた。

⑤主要心血管イベントの無い患者における抗血小板薬服薬アドヒアランス
全体の99.0%の患者が、3ヵ月後の追跡調査時においてプラスグレル単剤療法を継続服用していた。また、3ヵ月以降も98.5%の患者が、主治医判断によりプラスグレル単剤療法を継続していた(図1)


表1 ベースラインの患者背景(患者206例)
表中の数値は平均値±標準偏差または人数(%)を示す。* 患者2例は登録後に試験参加への同意を撤回し、自身のデータを本報告に含めないよう求めたため、登録患者数は208例であるが本表のデータは206例のものである。† 第1度近親者に冠動脈疾患の既往がある。‡ 1年以内に入院を必要とする出血イベントの既往がある。§ 腎不全はクレアチニンクリアランスに基づく推算糸球体濾過量<60mL/分/1.73m2と定義。
略語 CCS:慢性冠症候群、MI:心筋梗塞、PCI:経皮的冠動脈インターベンション

表2 3ヵ月間の追跡期間中の臨床成績
表中の数値は人数(%)を示す。
略語 BARC:Bleeding Academic Research Consortium、MI:心筋梗塞、PCI:経皮的冠動脈インターベンション、ST:ステント血栓症

表3 3ヵ月間の追跡期間中の臨床成績
表中の数値は人数(%)を示す。
略語 BARC:Bleeding Academic Research Consortium、ST:ステント血栓症

図1 Flow chart of ASET-JAPAN pilot study

考察

東アジア人のCCS患者に対する、PCI後のプラスグレル低用量単剤療法の安全性と実施可能性を評価した初の前向き試験の結果、3.75mg/ 日用量のプラスグレル単剤療法において、SYNERGYステントを留置したPCI 後3ヵ月間の追跡期間中に、主要血栓性及び出血性イベント、ステント血栓症は発生しなかった。また、IVUSやOCTといった冠動脈イメージングデバイスは、プロトコールで使用を義務付けていないにもかかわらず、99.6%の病変治療で使用され、ステント留置が最適化された。

結論

低リスクの日本人CCS患者に対し、SYNERGYステントを留置したPCI後の低用量(3.75mg/日)プラスグレル単剤療法の安全性と実施可能性が示された。

論文ポイント

  • 本試験は、低リスクの日本人CCS患者に対し、低用量(3.75mg/日)プラスグレル単剤療法の実施可能性と安全性を評価した初の試験である。
  • 標準的なDAPT負荷投与後にSYNERGYステントを留置しPCIが成功したCCS患者に対する低用量プラスグレル単剤療法において、3ヵ月時点の主要虚血性エンドポイント、主要出血性エンドポイントのイベント発生及びステント血栓症の発生は0%であった。
  • 本試験結果から、出血リスクが高いとされる東アジア人に対する低用量プラスグレル単剤療法の実施可能性と安全性が示された。ただし、限られた症例に対し限定された製品を使用し実施された試験結果であることから、全PCI症例に対する“Aspirin Free Strategy”の実施可能性、安全性、及び有効性の確立のためには、更なる研究試験の実施と結果が待たれる。

 

 

承認番号・販売名

販売名 : シナジー ステントシステム
医療機器承認番号 : 22700BZX00372000